パンとアート

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(読書記録)『下り坂をそろそろと下る』平田オリザ 著 (講談社現代新書)

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著者の平田オリザさんは演劇の世界では超有名人。

日本で最大級の演劇団体である青年団を率いつつ、行政にも関わり教育や地方のあり方に対して積極的な活動をされている。「超」がいくつあっても足りないほどの超人で、年中、世界中あちらこちらで公演・講演会・ワークショップ・執筆などなど様々なところでその姿を見かける。

 

自分もなんどかワークショップに参加したりしてお話ししたこともある。印象的だったのは1ヶ月に渡って演劇創作のワークショップに参加した時のこと。

 

自分を含めて数人が1週間くらいかけて考えてきた物語のプロットを読んでもらった時、ほんの数秒しか見ていないのに前回と比べてどこが変わって、どこが良くなってどこが悪くなったか、そしてそれを解決するためにはこういう考え方があるよと幾つも提示された。

 

印象としては読むというより「スキャン」していたという言葉の方が正しい。それくらい一瞬だったのだけれど指摘の全てが的確すぎて全てを見抜かれていた。頭のいい人にはいっぱい会ったけど、平田さんはその中でも別格。

 

著書を何冊も出されているけれど今回読んだ『下り坂をそろそろと下る』は2年前に出版された本。実はすでになんども読んでいるけど、平田さんの本は読むたびに新しい発見があるのでほかの著作も含めて定期的に読み返している。

 

「まことに小さな国が、衰退期を迎えようとしている」

坂の上の雲』の出だしを改変した一行で始まるこの作品は、下り坂を降り始めた日本がとるべき道を提言する日本論になっている。

 

実際に日本中を飛び回り、そこで見てきたそれぞれの地域の取り組みの事例の中にピークを過ぎた日本にとってのヒントが詰まっている。

 

瀬戸内海の小豆島、城崎国際アートセンターで有名な豊岡、東日本大震災後の女川・双葉など、地理的に東京などと比べて圧倒的なハンデがある中、そこにしかないものを見出しそれを外に向けてアピールすることで道を切り開いている様子には頼もしさを感じる。

とはいえ、本書のメッセージは別に「今は衰退していても工夫次第でこれからもバリバリやれるぜ!」という類のものではなく、果てしない後退戦を耐え凌ぐかというところにある。

 

「おそらく、今の日本人にとって、最も大事なことは、「卑屈なほどのリアリズム」を持って現実を認識し、ここから長く続く後退戦を「勝てないまでも負けない」ようにもっていくことだろう」(p220)

 

という一文に象徴されるように、バブル期のような夢(私は経験していないんですけどね)を追いかけたり、太平洋戦争時のように自分たちを過剰に評価して無謀な道を選ぶことをせずに、いかに成熟した国になることがアジアという地域においても大事か、そしてそのヒントはあちこちに、特にいままで日本では軽視されてきた文化的な文脈・営みのなかにあるということをわからせてくれる。

先に書いたようにバブルを経験していない生まれた時から右肩下がりの状況に置かれている自分にとってこの主張はすごく腑に落ちた感覚。

 

いまものすごい勢いで広がっている、働き方に関する意識改革だとか、地方での活動だったり事業だったりはたぶんそれを当たり前のように持っている人たちがどんどん社会の中心になってきていることの証明のように思う。

 

まだ当分、会社が人生にとって大きな割合を占める考えが主流だろうけど、それとは違う生き方・あり方を肯定してくれる人が増えればきっと成熟した国になれるのではないか、そんなことを思った。

 

なんか、国のこと考えるとか真面目なことだけ書いて終わるのはいやなので、ゴリラとオオカミとワニが大きくなって街を破壊する最高の映画『ランペイジ巨獣大乱闘』をお勧めして終わります。

 

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